ヨーロッパ・アルプス
2017年 02月 24日
短歌 (山Ⅱ) 清 水 弘 一
ヨーロッパ・アルプスを登る
2003年朱夏 猛暑が続き、雨が少なく岩雪崩が多く グーテ小屋経由のルートは
封鎖、コスミック小屋経由のルートも状況は悪く、モンブラン登頂を断念する。
モンブランの対面の山 ル・ブルヴァン山に高度順応と足慣らしに登る。眼前の
モンブランの最上部は深い雲に包まれている。
翌朝 エギュ・デュ・ミディの山頂駅3,842mからジュアン氷河のトラバースを
行う。モンブラン・デュ・タキュル4,248mを右手に見ながら大きく迂回すると、
回り舞台は鋭角な岩峰が幾重にもそそり立つ。ポツン・ポツンとレイン・ウェアー
に雨音がする。白いビーズの雹が氷河の上に撒き散らされる。雷鳴も低音の打楽器
として響いてくる。空に陽光が差し始め徐々に山容が明るさを取り戻し、全員上着
を脱ぎ軽食をとる。青空は澄み渡っているが、ロープエェイが停止する。
高所の氷河の天気の急変である。
雨が氷雨に変わり雷鳴が響く、2つのパーティの遅速を促す如くイナズマが走り、
雨脚が速くなる。五人のパーティの一人に高山病の症状が表われ夢遊病者の歩み
となる稲妻が視界を走り、鋭いナイフの閃光が網膜に残る。
エギュ・デ・ミディの山頂の鉄柵を足場を確保したガイドが満身の力で引き上げる。
雷を伴わない雨や霰であれば簡単なトラバースであったであろうが、稜線を襲った
雷は全員に落雷か、横殴りの雷の恐怖を与え続けようやく追跡の手をゆるめた。
稜線を襲う稲妻耳朶触るる ザイルが結ぶ仲間托生
5時20分老練ガイドとロープを結ぶ。ヘッド・ランプの照射する灯りは
僅かなものであるが、氷河の雪の結晶が光体として作用するのか、歩を進め
確保するに十分な明るさとなる。氷河は沈黙し凍てついて見えるがアイゼン
装着の登山靴は心地よい響きを伝える。
山頂の先端から山小屋までは細長いバージンロード程の広さである。
小屋の名前のマルガリータが今回登頂した花びらの名前でもあった。
クレバスの口冷厳と気息絶つ 氷河堆積太古始動す
ブライトホルンの頂に立つと雲上のパラダイス、視界絶好の天上の世界であった。
一昨日 意気投合シタモンテ・ローザはバラの花が今開かんとする姿に茜の色を
差して輝き、神々しい容姿を広げる。感動の大きさを一枚の縮図として描いて
くれた様である。
この景観を掌握した感動は頂上の者に共有される。アルプスの最高のビュー
ポイントがゴルナグラート3,100mからの壮大なパノラマであるなら、ブライト
ホルン山頂の展望はアルプスの王者 マッターホルンと貴公子モンテローザ両雄
をたなごころに容れ、賞讃するかぶりつきの舞台のそでのポイントである。
神の斧研ぐ切っ先に孤高あり マッターホルン尊厳のまま
マッターホルン Matterhorn 4,478m
マッターホルン 「魔の山」 と呼ばれる。
その頑強・鋭利な岩肌は年月・風雪に削られ、時の流れのままに素肌を
方脱ぎにする。灰色から薄茶色の岩肌に時折雲母の光が混じる。
その強靭な姿に雲も遠く離れ、鍛え抜かれた岩峰が空を突いて屹立する。
人を寄せ付けず君臨し続けたアルプスの至宝はエドワード・ウインパー
の1865年の初登頂後も尊厳を失うことなく孤高としてそびえ立つ。
アルプスの氷河弧峰に添い遂げる 連理の契り永久に変わらず
by kodaira220
| 2017-02-24 10:34
| 短歌